センター倫理(5)家族のかたちの変化

■都市化/郊外化と核家族化の進行: 高度経済成長期(1955-73)に、太平洋ベルト地帯で工業・サービス業が発展し、安い労働力が大量に必要となる。これをカバーしたのが地方出身の新規学卒者たち(団塊世代=戦後生まれ第一世代)で、彼(女)らは集団就職で都市中央部(都心)に移り住み、労働者となった。やがて彼(女)らは結婚して核家族を形成し、人口急増で生活環境が悪化した都心を離れて都心近郊に移り住み、そこから都心の職場へ通うようになる。こうした需要を見込んで、都市近郊では開発と住宅団地の建設が進む(郊外の誕生=郊外化)。かくして、農村部では大家族、都市部の都心(職場が集中)では単身世帯、都市部の郊外(住宅が集中)では核家族、という家族類型の棲み分けが成立するようになる。
■家制度から核家族へ: 戦前は家制度(家長=戸主に家の統率権がある。その命令は絶対で、女性は男性に従属)が存在したが、日本国憲法により廃止される。日本国憲法のもとでは、当事者2人の合意があれば(家長のOKがなくても)結婚することができるようになった。これを前提に、高度経済成長期に核家族が、郊外居住の都市生活者を中心に広がっていく。郊外居住の核家族は、主にサラリーマンである夫=父と専業主婦である妻=母、そして子どもの3つの役割から構成されるが、都心に出勤するため基本的に不在である夫=父は、家族内で権威を保つことが次第に困難となる。その代わり、残された妻=母と子どもが密着度を高め(母子カプセル)、これがさまざまな社会問題の根っこ(土居健郎『甘えの構造』)となる。
■家族の機能解除: かつての大家族(家、世帯)は、祭祀(死者を弔う、先祖を祭る)、裁判(家族内外のもめごとを仲裁する)、保護(家族メンバーの安全を確保する)、経済(家族メンバーを食わせるために生産する)、教育(子どもを一人前の大人にする)、再生産(子ども=新しい家族メンバーを増やす)などの多様な機能や役割を担っていた。これが、社会組織が発達していくのに伴い、祭祀機能は教会や寺社が、裁判機能や保護機能は近代国家(裁判所、警察・軍隊など)が、経済機能は企業が、そして教育機能の一部は学校が、それぞれ家族役割を代替する形で機能を拡充していくようになった。かくして、現在の核家族の役割は、教育および再生産の機能のみとなっているが、この部分すら縮小しつつある現代家族には重荷であり、NPOや社会企業などによる機能代替が求められている。