縁側空間の誕生

■前回、「ぷらほ」の組織運営の特徴として、地域内に存在するさまざまな文化圏や文脈の発掘・構築により、取り組みの外延を次つぎに拡大し、多様さを増大させていく点に触れた。これはつまり、「ぷらほ」というミッションに基づく共同体のウチ/ソトの境界線を絶えず引きなおし、曖昧にしていくワークでもある。実はこのことを、私たちは完全に計算づくでやっている。そのことがねらっているのはどのような効果か。今回はそこを記述してみたい。
■人びとの集合である共同体には、(1)その集団をばらばらの個に解体する遠心力と、(2)ばらばらの個を集団に統合する求心力とが同時に働いており、両者の力関係がどうであるかに応じて、その共同体のありかたが決まってくる。したがって、共同体運営にあたっては、これらの力をうまく統制したり、それがしやすい環境を整えたりすることが欠かせない。このうち、遠心力の統制に関連して私たちが行っているのが、共同体のウチ/ソトの境界線に対する象徴操作である。
■ところで、この「共同体のウチ/ソトの境界線」というのは実体をそなえた何かではない。それは、人びとが「どこに線を引くか」ということに関して、意識的あるいは無意識的に取り交わしている合意のことであり、たいていその線引きは何らかの象徴(シンボル)によって可視化されている。例えば、求心力を喚起しようとする学校教師たちの象徴操作の典型が「制服」であり、それに対抗して遠心力を保持しようとする生徒たちの象徴操作の典型が「着崩し」である。
■当然ながら遠心力が強すぎれば集団は解体してしまう。大事なのは、二つの力のバランスだ。ミッションの強度にこだわり、これまで前者を重視し続けてきた私たちの課題は、そこに適度な遠心力を働かせていくことで、そのためにウチ/ソトの境界線を曖昧にするワークを行っている。具体的には、ソトの人びとと一緒に取り組む企画を「ぷらほ」のウチで実施することであり、「ぷらほ」の人びとが「ぷらほ」のソトで「ぷらほ」的な取り組みを実施することである。
■そうした曖昧化のワークにより、ウチの人びとに対しては、硬直化しがちな思考・行動を相対化してくれるソトの風を届けることができ、また、ソトの人びとに対しては、ウチの価値・文化と接触できる敷居の低い機会――お試しコース!――を提供することができる。こうしたウチ/ソトの境界線が曖昧なグレーゾーンを「縁側空間」と呼んでみたい。この「縁側空間」の地域における拡大こそが私たちの長期ミッションと言えるかもしれない。*1

*1:『ぷらっとほーむ通信』087号(2010年7月)