センター現代社会(4)科学技術の発達と倫理的課題

■近代科学の思想: 現代の科学技術発達の基盤となったのが近代科学の思考法。出発点の17世紀にさかのぼると、ベーコンが確立したイギリス経験論の流れと、デカルトが確立した大陸合理論の流れがある。前者が、実験・観察を重視し、帰納法(個々の事実から出発して一般的な法則を導き出す)を用いて、人間に役立つような知識を追求していくのに対し、後者は、理性の働き(推理・推論)を重視し、演繹法(確実な原理に基づいて個々の事実を推測する)により、物体を精神の単なる対象と捉える。18世紀において、これら二つの潮流を統合したのが、カントのドイツ観念論。これらに共通するのは、自然を人間による支配の対象と考える近代的自然観。だが、こうした自然観や科学的精神は、今日では見直しを迫られている。
■現代の科学技術: 遺伝子操作やクローン技術、ヒトゲノム計画など、バイオテクノロジー(生命工学)の発達により、生命倫理(バイオエシックス)が求められるようになってきた。
■遺伝子組み換えと食の安全確保: 遺伝子組み換えについては、未知の領域ゆえ危険性も指摘されている。遺伝子組み替え食品に関しては、「遺伝子組み換え○○使用」などの表示の義務づけ、限られた作物に関してのみの輸入許可などで対応している。
■クローン技術とその規制: クローンとは遺伝的に同一の固体や細胞の集合のこと。クローン技術開発の動機となっているのは、臓器不足を解消したいという欲望。クローン人間を作成してそこから臓器をとりだすという発想。これに対し、ユネスコは「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」を採択(1997)し、クローン人間作成を禁止した。日本でもヒトクローン技術規正法(2000)で、クローン技術の開発を規制しているが、ヒトクローン胚(あらゆる臓器に育成可能なヒトES細胞のもとになる)作成に限り、研究のためならOKとしている。
■ヒトゲノム計画: ゲノムとは生物がもつ遺伝情報の全体のことであり、いわばその生物の設計図のようなもの。ヒトゲノム計画は、この人間に関する全遺伝情報の解析を進めるプロジェクトで、2003年に解読を完了した。
臓器移植法(1997)について: 心臓死(心拍停止・自発呼吸停止・瞳孔散大)のみならず、脳死をも人の死として初めて認めた。臓器移植法による脳死の定義は「脳幹を含む脳の全機能が停止している状態」というもので、植物状態(脳幹が生きていて自発呼吸可能)とは異なる。とはいえ、身体は生きているが脳は死んでいる(つまり死体)と捉えるか、脳は死んでいるが身体は生きている(つまり生体)と捉えるかで、この法律についての評価は分かれる。脳死かどうかは、本人意思(「ドナーカード(臓器提供意思表示カード)」で表明可能)と家族同意がある場合に限り、二人以上の医師の判定を経て決定される。脳死判定を受けて摘出された臓器はそれを求める患者に移植されるが、その際の臓器売買は禁止。