「プロの非常勤」であるために。


予備校方面にていろいろと急展開。講師の一人が「ヒマラヤ登山に挑戦することになったので突然ですが辞めます」とのことで、来週から大学予備科の「倫社・センター試験対策」の講義を担当してくれないかとの打診あり。ただでさえ予定が詰まっているので、できるだけ仕事は減らしておきたいのだけど、ちょっと思うところがあって受けることにした。

サークルの仲間やNPOで関わる人たちから耳にする情報を自分なりに総合してみると、どうやら学校現場では、財政難という問題に対処するという名目で、受験教育の周辺部分より「リストラ」が始まっているらしい。「施設修繕費が削られたので破損箇所も放置」とか「暖房費が出ないので部活動中の経費は顧問の自腹」とかは普通らしい。

教育活動そのものに関しても、芸術系の教科に関しては、「どの学校も専任は置けないから、非常勤講師が複数校の授業を掛け持ち」とか、「非常勤を雇うのも苦しいので、美術の授業は音楽教師が代理で」とか、めちゃくちゃな状況である。だが、こうした「リストラ」は、芸術系の教科にとどまらないのではないかと私は考えている。

進学校の教員の世界には、「主要5教科」とか「主要3教科」という差異化の語彙が存在する。「3教科」の場合には、国語・数学・英語が、「5教科」の場合には、これに地歴科・理科が加わる。いずれにおいても、大学の一般受験とは無関連な教科の教育/教員に対する微かな侮蔑がこめられている。「リストラ」は、おそらく「3教科」以外の全領域に及ぶものと私は思っている。

いずれはどの学校も、地歴科や理科に関しては、上記のような非常勤代替への動きを採用していかざるを得ないだろうと思う。そういう状況では、複数の学校での授業を渡り歩くような「プロの非常勤」への需要が高まるであろうことは予測可能だ。うざったい「生活指導」(という名の人権侵害)に加担することなく、教科指導のみに携わりうる、これは絶好のポジションではないか。

とすれば、今私がやらなくてはならないことは、「プロの非常勤」としてのトレーニングである。残念ながら、政経や倫社に関しては、私はいまだ指導経験を持っていないし、それらの科目に関する最低限度の知識すら持っていない。どんな「依頼」が来ても即座に受諾できるように、社会分野に関しては、あらゆる科目を知悉した上で、指導経験をも積んでおく必要がある。

そういう意味で、今回の件を受諾することにしたわけである。とか何とか、いろいろ理屈を述べてきたが、「目標をもって何かを吸収しようという若い人たち」に一年間、いろいろなことを伝えることが可能な枠(メディア)をもらえるということが、本当のところは大きい。やはり私は、若い人たちに伝えたいのだと思う。この世の中の不条理な現実を、そこでの鬱屈や怨念や怒りを。そしてそれらをつくりかえていく希望を。