「シネマカルチャーサロン」という実験

■年度初めより、市民派の映画館「フォーラム山形」と共催で、月1回のペースで実施してきた企画「シネマカルチャーサロン」が、今月で6回目を迎える。多様な背景をもつ人びとが集い、お茶を飲みながら、特定の映画作品をテーマに語り合うことを通じて、社会/世界の豊かさなどへの認識を深めていくというのが基本趣旨であり、これまで『ハートロッカー』『ソラニン』『告白』『キャタピラー』『悪人』について語る会を開催してきた。6回目は『オカンの嫁入り』だ。
■参加者は毎回およそ10人程度。当初は参加者の大半が「ぷらほ」つながりであったが、会を重ねるにつれて一般参加も増え、現在では約半数が一般参加者である。面白いのが、そこで交わされる意見や感想の多様さで、とても同じ映画作品を話題にしているとは思えないほどだ。芸術作品として批評的に読解する人もいれば、俳優について熱く語る人もいるし、そこで描かれた社会問題にこだわる人もいる。よって、この複雑性を縮減する何らかのしくみが必要となる。
■そこで私たちは、「語る会」のミッションを「映画作品を素材にした、社会/世界についての学び」に置き、そうした方向性で学び合いを進めていくための叩き台となるネタ――スタッフ・滝口による、社会学的な作品の背景解説――を冒頭で投下することにしている。『ハートロッカー』については現代暴力論、『ソラニン』については若年労働論、『告白』についてはいじめ論、『キャラピラー』については国民国家論、『悪人』については後期近代論をそれぞれ下敷きにした。
■こんなふうに書くと、非常に小難しい、敷居の高い集まりだと誤解されるかもしれない。が、決してそんなことはない。心がけているのは、社会学が編み出した「複雑で不透明な世の中を読み解くための読解フレーム」を、極力専門用語を使わず、映画の登場人物や物語内容に即してわかりやすく説明することである。もし理解困難な箇所があったとしても、少人数の会ゆえ、途中で質問することも可能だ。そうした工夫もあってか、会はいつもかなりの盛り上がりを見せる。
■手探りですすめてきた企画だが、半年が経ち、「文化資源をネタにしたゆるやかで敷居の低い学びの場を地域のなかに胚胎させていく」という中・長期的な目論見(の第一歩)が徐々に形を成しつつある。ゼミや読書会など「ぷらほ」の学び支援事業は、学校文化に染まり他律的な「お勉強」に慣れた人びとには敷居が高すぎるという課題がある。必要なのは、もっと敷居の低い学びの機会提供だ。「シネマカルチャーサロン」の実験を、ぜひ次へつなげていきたい。*1

*1:『ぷらっとほーむ通信』091号(2010年11月)