『地域メディアが地域を変える』

地域メディアが地域を変える

地域メディアが地域を変える

■読了文献。113冊目。河井孝仁・遊橋裕泰『地域メディアが地域を変える』。官民あげてヒト・モノ・カネを第二次産業に集中させ、工業社会へと最適化する路線を歩んできた戦後日本。それにより、地方都市にあっても、製造業の工場が雇用を生み出し、地域経済が潤うとともに、人が集うことで公共サービスも充実する、といった持続的な経済の循環が達成されてきた。ところが現在、工場海外移転による地域経済の空洞化や、地方都市とその周辺農村から大都市への人口流出、流出先の大都市郊外における地域アイデンティティの欠如など、「地域」をめぐるさまざまな課題が山積している。こうした地域社会の行き詰まりに対し、本書では、地域メディアの活用による地域活性化が、提案されている。NTTドコモのシンクタンクモバイル社会研究所」と、地域情報化に関わる研究者・実務家たちの共同研究の成果が本書である。本書ではまず、曖昧なまま多用されている「地域活性化」を、「地域の多様なステイクホルダーが、連携を基礎に活動しつづけられること」と定義。多様な人びとの生活が、多様性を保ったまま持続可能となることを目指す。そのためには、さまざまな地域課題やそれに対処できるさまざまな地域資源に関する情報を「見える化」し、両者が最適な結びつきを模索できる「政策協働市場」=「地域情報アークテクチャ」として地域メディアを設計・構築していく必要があるという。とはいえ、それらを実質的に機能させ、これまでなかったようなユニークな情報接続(本書はこれを「発火」と呼ぶ)の機能が果たされていくには、それを担う人=「地域職人」が欠かせない。要は「若者・馬鹿者・余所者」をそのヴァルネラビリティ(弱さ、不完全さ、目立つ存在、非中心性、そしてそれゆえの誘発力)に即して概念化したものだが、本書の考察は、いかにしてこの「地域職人」を増やしていくか、にまで及ぶ。私たちが自らのNPO・市民活動実践を振り返るに際し、貴重な思考の軸を、本書は提供してくれるだろう。