『マスメディア 再生への戦略』

マスメディア 再生への戦略

マスメディア 再生への戦略

■読了文献。114冊目。世古一穂・土田修『マスメディア 再生への戦略:NPO・NGO・市民との協働』。明治時代に雛形ができ、戦時中の国家総動員体制のもとで完成した、日本独自の情報統制システム・「記者クラブ」制度。私たちが、新聞やテレビなどで手にする情報の大半は、政府・官庁などの発表する情報が、大手メディアが構成する「記者クラブ」――クラブ非加盟の記者、週刊誌記者、フリーライター、外国記者などはアクセスできない――を介して国民に一方的に伝達される形で与えられたものだ。当然ながらそこには、政府・官庁に不都合なテーマや話題は含まれない。結果、私たちは、成否を選択するために不可欠な情報さえ与えられぬまま、政府・官庁に都合のよいアジェンダ設定のもとで、政策や制度の成否を意思決定しなくてはならない。これが、私たちの「民主主義」である。これら「記者クラブ」制度のもとで利益独占しているのが、「公的ジャーナリズム」と「私的ジャーナリズム」である。前者は、政府・行政情報の伝達を使命とする取材・報道であり、そこでは権力による「情報操作」や権力との癒着などの問題が蔓延している。一方で後者は、世俗的な興味関心に基づく取材・報道であり、そこでは「集団過熱報道」「一極集中報道」とそれによる人権侵害が頻発している。これら問題含みの現状に、本書で対置されているのが、市民の視点に立って取材・報道を行う「公共するジャーナリズム」だ。「公平無私」「客観中立」が前提の既存ジャーナリズムが、まさにその発想ゆえに行き詰っているとの認識から、そこでは市民社会NPO・NGO・市民)との協働が積極的に目指される。地元NPOに紙面制作を任せる新潟県上越市の地方紙『上越タイムス』や、廃刊になった地方紙の記者たちがNPOをつくり住民参加型のインターネット新聞として復刊させた『NPO鹿児島新報』など、市民社会が担い手となり、市民社会の胎動を取材・報道していく市民参加型メディアの事例も豊富だ。マスメディア再生の鍵は、私たち市民が握っている。