『民俗学と歴史学』

■読了文献。40冊目。赤坂憲雄民俗学歴史学網野善彦アラン・コルバンとの対話』。新聞書評のための読書。著者の「思想史的転回」を促した、歴史学の「東西の巨人」との対話を中心に構成された対談集。著者が、柳田の一国民俗学が戦前の時代状況の中でもった意味(侵略戦争・植民地支配への加担の拒否)と戦後においてもった意味(侵略への契機をもたないがゆえに人びとの慰めとなった)とを分けて語っているあたりが非常に面白かった。アナール学派第一世代あたり(リュシアン・フェーブル、マルク・ブロック)と柳田民俗学の比較分析――あるいは同時代の各地における社会史的な対象へ向かうまなざしの同時多発をめぐる構造分析――は、対談の場での思いつきに終わらせずに、もっと継続して追及して欲しいテーマであります。20世紀の歴史学的想像力の思想史みたいな。ところで書評の件ですが、話題にあがっているコルバン『記録を残さなかった男の歴史』はもちろんのこと、網野さんや赤坂さんの著書、さらには柳田『明治大正史世相篇』あたりも読んでみないことには、書いちゃいけないような気がしてきた。「想像力の涵養」ということ以外にはいっさい役立ちそうもない「知」としての歴史学民俗学。かつて自分にとって当たり前だったその前提が、今ではすごく懐かしく、それでいて新鮮に感じられる。よろしくない傾向。これってそうそう簡単には忘れちゃいけない前提だよなと改めて身を引き締める。