『失われた町』

失われた町

失われた町

■読了本。24冊目。三崎亜記『失われた町』。『となり町戦争』の中の人の長編。30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と消失する住民たちと、彼らを失った痛みを抱えたまま日常に取り残された人びと。『となり町戦争』がわたしたちの内属する「戦時下の日常」のユーモラスなパロディであったように、『失われた町』もまた「戦時下」が前提となっている。物語の主軸は、「消滅」という不条理やそれに翻弄される人びとの無力といった点にはなく、それらはあくまでも前提として、その抗いがたい流れに飲み込まれてしまうことなく、それに抗い、そうすることで望みを先の誰かにつなげていく人びとを描き出すということのほうにある。世界への埋没に抗い、当事者性を覚醒させていく人びと。『となり町戦争』がそうした「埋没」を精緻に描くことで「当事者性不在の生」というものを際立たせていたのに比べ、こちらでは「覚醒」の側面が非常に色濃くなっている。しかし「覚醒」に説得力を持たせるための当事者差別・蔑視についての描写が不十分で、設定だけが上滑りしているような印象がなくはない。「分離者」のエピソードが非常におもしろい。