香山リカ、佐高信 『チルドレンな日本』

チルドレンな日本

チルドレンな日本

自民党圧勝という予期せぬ結果に終わった二〇〇五年の衆議院選挙。その背景要因としては、テレビメディアを積極的に活用した小泉純一郎首相の「劇場型政治」と、それを歓迎した有権者の「観客」化がよく指摘される。テレビを真ん中に挟んで、対峙しているはずの権力と国民とが奇妙に融和し、無責任なまま一方向に突っ走ってしまうような、危険な構図がそこにはある。この認識を軸に、酒田出身の評論家・佐高信と、酒田に思い入れがあるという精神科医香山リカが、現在の日本社会のありようを縦横に語りつくした対談集、それが本書である。
ひと言で表すと、本書の面白さは、その無軌道さや率直さにあるのだと思う。対談集というとやや硬い。正確には「居酒屋談義」と呼ぶくらいがちょうどよいかもしれない。誰に気兼ねするでもなく、ただ興味のむくままに接続されていくコミュニケーション。誰もが読みやすい自由さが魅力だ。
この「居酒屋談義」形式は、批評内容にも深く反映されている。従来、大衆や弱者、少数派の立場に立ち、その矛先を権力や国家に向けて批評や批判を展開してきた左翼評論家と精神科医は、本書でその対象を「お子ちゃまな彼らが跳梁跋扈する幼稚園チックなこの社会」そのものにまで拡大する。権力を批判し大衆を擁護する左翼言論の「お約束」を踏み外す自在さが現れた一面であろう。自らの無意識の前提をも踏み破るこうした試みこそが、硬直した左翼言論を活きた言葉へと再生させてくれるのではないだろうか。
本書の一部は、今年四月に酒田市東北公益文科大学で開かれた公開対談「テレビの夢と罠」を収録したものである。「小泉改革」やら「テレビ政治」やらが地方にもたらしたものの重さを思うとき、本書の言論が地方にて生成したということに、つい象徴的な意味を読み込みたくなってしまう。深読みのしすぎであろうか。*1

*1:山形新聞』2006年8月27日 掲載