フリースペースの「進路」支援 〜ぷらっとほーむの取り組みより〜

(1)フリースペースぷらっとほーむの概要について  

  1. 基本コンセプト: 子ども・若者たちの居場所づくり。不登校・ひきこもり等に限らない、居場所を求める全ての若年に開かれた居場所づくり。
  2. 2003年4月、山形市江南にフリースペースを開設。毎週木曜〜土曜日の11:00−17:00、フリースペースを開放し、子ども・若者たちを迎え入れる。いつ来てもいつ帰っても可。プログラムやメニューはなし。
  3. NPO(任意団体)として、自主財源でフリースペースを開設・運営。運営スタッフ2名、賛助・支援会員47名。2005年10月現在、10数名の子ども・若者たちがフリースペースを定期/不定期に利用。

(2)ぷらっとほーむの支援前提について 

  1. 基本的に、個々のこころや内面に照準してそれらの変化を目指すような「専門家(専門知)による指導/治療/支援」は行わない。上下関係ではなく、対等の目線での支援や関わりをこそ行う。
  2. 専門知不在(=上下関係不在/対等な関与)とは、若年と関わる際の目的地(ゴール)が一定ではないということ。よって、居場所の支援とは、本人の動機や目的意識に沿ったもの、それらを後方から支えるものとなる。
  3. 当然ながら、本人に「いま・ここ」ではない「どこか」へ向かおうという欲望や動機が存在しない場合には、支援を外側から押しつけない。本人の欲望や動機が回復しやすい(居心地のよい)環境や関係の構築にとどまる。
  4. 以上をまとめると、若年が自らの速度やペースで悩んだり、学んだり、成長したりすることのできる環境や機会の提供が、ぷらっとほーむの主眼。

(3)ぷらっとほーむの支援技法について――スタッフはどのような関わりをしているか
■若年利用者との支援的な関わりには、いくつかの段階的なパタンが存在。すなわち、①スタッフとの関係づくりの段階、②他の若年利用者との関係づくりの段階、③他の居場所との関係づくりの段階。

  1. 「居場所」を、①安心して弱音をはける場、②自分にも関与の余地がある場、の二つの機能が満たされた場と定義すると、居場所づくり活動の目的とは、フリースペースの提供とそれ以外の居場所への接続ということになる。
  2. よって、まずは「居場所を欲する若年」に、ぷらっとほーむでのスタッフや他の利用者との人間関係という「居場所」を提供。そこで動機を回復しさらなる居場所を欲した者には、外部の関係や機会への接続を後方支援する

■では、居場所スタッフはどのような具体的技法でもって、子ども・若者たちと関わっているのか。思いつくままに、そのいくつかを言語化してみる。

  1. 積極的に「聴く」ということ: 相手が話しやすい雰囲気や環境をつくり、その人固有の言葉/語りを引き出すということ。本人も気づいていない価値を拾い上げ、言語化すること。
  2. 会話の水準に照準するということ①: 「欲望や動機 → 会話やコミュニケーション」ではない。会話やコミュニケーションにより他者との関係性に巻き込まれてあることが、事後的に「欲望や動機」を構成する。
  3. 会話の水準に照準するということ②: 「会話やコミュニケーション」の水準に、介入の範囲を限定することで、「こころや内面」の泥沼(共依存関係)に深入りせず、共通言語(生産的関係)を積み上げていくことができる。
  4. 距離感覚を可視化するということ: スタッフは「聴きすぎず、受け止めすぎない」ということ。適度な距離感覚の調節を重視。拒絶する権利を保障しつつ関わるということ。「親切にする」ということ。
  5. 多様な選択が許されているということ: プログラムもメニューもなく、何をして過ごしてもよい空間。「何をしても良い」をスタッフ自らが体現する。潜在的な可能性を目に見えるものとして提示する。
  6. 「誘惑する」ということ: 「よい/面白い/楽しい」と感じる価値を伝えたいときには、強制したり押しつけたりするのではなく、その魅力を言葉で語り伝えるということ。自発性はあくまで本人の側にとどめおくこと。
  7. 「背中を見せる」ということ: スタッフ自らが体現する価値(そのユニークさ)を積極的に見せること。生きかた/学びかた/関係のしかたのロール・モデルの提示。建前だけでなく、本音や弱音も積極的に見せる。
  8. 「他者につなぐ」ということ: 異なる話題/関係/文脈どうしを相互に接続すること。ただしその場合には、逃げ道(接続されない自由)をも同時に提供。敷居を下げて、他の居場所につながりやすくすること。
  9. 「カウンターをあてる」ということ: 自分の価値を絶対視することのないよう、「偏り」ある言葉/語りに対しては、対抗価値をあてがって中和するということ。その際には「Yes…, but…」をこころがける。
  10. 「型を提供する」ということ: 「やりたいことがある → 何かをはじめる」ではなく、「とりあえず何かをはじめてみる → それがやりたいことになる」という「型」の活用。
  11. 「仕事をまかせる」ということ: 「とりあえずやってみる → それが自信につながる」という「型」の効用。NPOの仕事など、まかせられる仕事はまかせる。仕事=試行錯誤の機会を提供するということ。