『白塔』

山形国際ドキュメンタリー映画祭2005【参照】の上映作品のひとつ。舞台は中国、河南省。ろう者の男性・景明(ジンメイ)と、同じくろうの女性・王瑞(ワンレイ)の、成就しない恋愛。そしてそれをとりまくろう者たちの共同体。上映後には、監督を迎えてのQ&Aもあり。自身の兄がろうであるという監督は、中国のろう者の現実を少しでも多くの人に知ってほしくて映画を撮ったという。とはいえ、作品は「ろう者の現実」という社会的テーマを過剰に前景化させることなく、友情と恋愛のはざまで揺れる景明と王瑞がユーモラスに描かれるのみ。その抑制ぶりこそが、本作品のもつ優しさであり、批評性の要であると思う。「彼らの現実」を見ようとするのではなく、「彼らが見ている現実」を見ようとすること。断絶ではなく、接続。
■居場所づくりの相方がQ&Aの手話通訳ボランティアをしていたということもあり、居場所のメンバーたちとともに観賞。メンバーの1人が車椅子を使っていて、その人と行動を共にしたのだが、改めて物理的な障壁(バリア)の多さというものに思い至る。上映前にいっしょにトイレに行ったのだが、段差ゆえの困難があり、上映スタッフに介助を手伝ってもらった。お礼をいうと、その人に「バリアフリー上映なんて銘打っておきながら、こんな段差の多い会場を利用しているなんて無神経すぎました。いろいろと勉強になりました」と概ねそんなことを言われた。それは私ではなく、彼本人に伝えて欲しかった。私自身、そういう具体的な障壁(バリア)がいかに多いか――「彼らが見ている現実」そのもの――に今さらながら気づかされた1人にすぎないのだから。その人のメッセージは、私が彼に届けよう。