『亀は意外と速く泳ぐ』

久しぶりのフォーラム。三木聡監督『亀は意外と速く泳ぐ』。平凡な主婦・片倉スズメ(上野樹里)はある日ひょんなことからスパイとなる。その任務は「平凡な日常を送ること」。退屈な日常は相変わらずそこにあるのだが、スパイという物語=解釈コードを手にしたスズメは、もはやそれを「退屈なもの」とはとらえない。現実の虚構化。むき出しの現実を物語=虚構で解読し、その操作によって自己の生に意味を供給する、私たちには馴染みのありかたである。興味深いのは、スズメが「目立たぬように=普通の主婦らしく」ふるまおうと再帰的になっていくくだり。当然ながら「普通の主婦」なんてものに実態があるわけでもなく、そうなるとこの「普通の主婦っぽさ」というのは、「「普通の主婦」っぽいとみんなが思うであろう(と私が思う)もの」を意味する。「お約束」としての「主婦」。そのあたりが割と周到に描かれていて、ナラティヴ・セラピーの文献を読んでいるみたいでおもしろかった。あとは、上野樹里はまりすぎ。