仲川秀樹 『メディア文化の街とアイドル』

酒田発アイドル育成プロジェクト、通称「SHIP」。地域商店街がその活性化のために企画した「コミュニティ・アイドル」事業という非常にユニークな試みだ。本書は、このアイドルグループとそれが地域にとってもつ意味や機能を、商店街のフィールドワークをもとに細やかに分析し、その今後を構想した、これまた非常にユニークな試みである。著者は、本誌の連載エッセイでもお馴染みの、酒田市出身の社会学者(日本大学教授)だ。
地域商店街の空洞化を加速させる郊外量販店の進出は、社会学的に見れば、地域の人々の「日常的な消費生活」の機能が、従来の商店街から、郊外型店舗に担われるようになってきたことを意味する。商店街の機能が変容したのだ。調査対象となった地元の若者たちの声は、商店街にこの変化への自覚が欠けていることへの不満に満ち溢れている。この流れを逆行させようとするから無理が生じる。ではどうするか。商店街を、人々の「非日常的な消費生活」の機能充足の場として、新たに構築し直すこと――これが、著者の地域活性化戦略の基本構想となる。
ではその「非日常」とは何か。鍵となるのが「メディア文化」、すなわち「SHIP」や七〇年代酒田におけるメディア文化の拠点だった映画館「グリーン・ハウス」である。メディアとは媒介すること。分断された他者どうしがそれをきっかけにつながりあい、新たなコミュニケーションが生まれていく。ならば、そうしたコミュニケーションの媒介項を創出し、そこを拠点にオリジナルの価値を発信していけばよい。「非日常」という吸引力はそうした場にこそ宿るのだから。
「SHIP」の、そしてそれを支える人々の船出はまだ始まったばかり。彼(女)らがいかなる「新大陸」を探り当てることになるのか、その行方を、同じ地方に住む親近感とともにあたたかく見守っていきたい。本書に媒介されて、どうやらすっかり私も「SHIP」をめぐるコミュニケーションに接続されてしまったようだ。*1

*1:山形新聞』2005年7月24日 掲載