『シンセミア』/『ねじまき鳥クロニクル』

阿部和重シンセミア』を読了。

シンセミア(上)

シンセミア(上)

シンセミア(下)

シンセミア(下)

2000年夏の「神町」の権力闘争が、1950年代における先行世代のそれと重ね合わせられながら描かれる。戦争の暴力ならぬ、戦後の暴力。その意味でこれは、村上春樹ねじまき鳥クロニクル』が描出した「ノモンハン」の、周到なパロディである。一方で本書は、「共同体」体質の日本社会において監視テクノロジーがいかなる含意を有するかに関する、稀有なシミュレーションともなっている(ように読める)。「何もない町」の「暇つぶし」として、監視と盗撮にはまり込む若者たち。彼らは、自警団を隠れ蓑に街中に監視カメラを設置、盗撮で得た個人情報――AとBは不倫している等――を網羅した街の人々の相関関係図をデータベースとして構築しようと試みる。何のために? 短期的にはゆすりのネタとして、長期的には支配/被支配関係の構築のために! その意味で、日本型監視社会の怖さは、国家(警察)の怖さであると同時に、社会(自警団)の怖さでもあると思った。
ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)