吉田司 『新宗教の精神構造』
- 作者: 吉田司
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/09/01
- メディア: 単行本
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オウムとは、一九八〇年代の新宗教ブームの申し子的存在。ではその新宗教とは何か。そもそも宗教とは「貧・病・争の克服」を課題とする共同体の機能的代替物である。戦前の近代天皇制、戦後の創価学会がそうだ。だが、高度経済成長により豊かさが達成されると、宗教の伝統役割それ自体が空洞化。多くの新宗教教団は、このアノミーを経済主義=宗教ビジネス化で乗り切った。幸福の科学しかり、法の華しかり、そしてオウムしかり。つまり新宗教ブームとは、飽食時代の「普通の日本人」が享受したバブル的な快楽資本主義の複製そのものなのである。
だが連続性はそれに留まらない。オウムはやがて癒やしビジネスを脱し、天皇制乗っ取りを画策した大本教のごとき「怪物宗教」の道を模索。そうした「ミニ天皇制」的教団経営の過程で物理的・精神的な武装へと至る。著者はここにも我々の似姿を見る。それは九〇年代以降急速に軍事化していく日本国家(あるいは「聖戦」に傾倒する国際社会)の鏡像そのものだ。
このように本書は、オウムとその土壌たる新宗教を、戦後日本の消費社会化、そしてまた軍事国家化の最先端に位置づける。宗教事象を「宗教史」の枠内に押し込めるのではなく、政治、宗教、経済といった諸領域の相克の歴史として描く本書の視座こそが、混迷の時代を読み解く最良のヒントを提供してくれるはずだ。*1