「敷居の低い「社会」」としての居場所

■改めて確認しておきたいのだが、私たち「ぷらほ」のミッションは、孤立する若者たちが「社会」へとつながり、力をつけていけるような居場所/学びの場づくりである。「社会」とは、多様性と複数性を特徴とし、さまざまな背景や文化を背負った人びとがともに属する空間を指す。「公共空間」とも「公共圏」とも言い替え可能だ。要は、「社会」からはじかれ、つながりを失い、孤立して苦しんでいる若者たちに「公共空間」への足がかりを与えるという活動である。
■孤立する彼(女)らを「社会」へとつなぐために、私たちが行っているのはどのようなことか。すなわちそれは、私たち自身が「社会」となり「公共空間」となるということである。だが、むき出しの「社会」や「公共空間」は多様性や複数性、他者性がいたるところで露出し、私たちに絶えず前提の見直しを迫るような危険な空間である。そうした危険な場に、いきなり不慣れな人たちを接続するわけにはいかない。そこで、「敷居の低い「社会」や「公共空間」」が必要となる。
■敷居の低さという点では、弱い成員へのケアを目的とする共同体としての「親密圏」が参考になろう。当事者たちによるセルフヘルプ・グループなどがその典型で、カテゴリーの同一性を基盤とした共同体をたいがいは意味しているのだが、この「親密圏」の特徴と先の「公共圏」の特徴とを兼ねそろえているような「親密な公共圏」または「公共的な親密圏」が可能であれば、それは「敷居の低い「社会」」となるだろう。筆者の見立てでは、これこそが居場所の本質である。
■「親密な公共圏」または「公共的な親密圏」は、教育社会学の移行期研究では、「媒介的な労働市場」とか「生産と教育を結合したオルタナティヴな教育機関」とかと呼ばれている。若者たちの多くが学校から会社へ、新卒一括採用という形でスムーズに移行し、大人になるためのコストを企業に負担してもらえた時代はもう過ぎ去ってしまった。企業に代わって、若者たちを社会化する機会を提供してくれる支援主体が必要だ。「ぷらほ」はこのニーズに応えようとしている。
■「公共圏」と「親密圏」の特徴を併せもつ居場所は、ややもすればすぐにどちらかの極に一本化されやすい。だが大事なのは、グレーゾーンに踏みとどまることである。親密性を基盤としながらも、同質集団だけで固まるのではなく、そこに「社会」の風――他者性や複数性――を呼び込んでいくこと。私たち自身が「敷居の低い「社会」」となり、つながった若者たちをその他の「社会」へとゆるやかに媒介していくこと。これが「ぷらほ」の支援の基本形である。*1

*1:『ぷらっとほーむ通信』101号(2011年9月)