仲川秀樹 『“おしゃれ”と“カワイイ”の社会学』

“おしゃれ”と“カワイイ”の社会学―酒田の街と都市の若者文化

“おしゃれ”と“カワイイ”の社会学―酒田の街と都市の若者文化

本紙読者にはお馴染み、酒田市出身の社会学者(日本大学教授)による、酒田の街の社会学。『メディア文化の街とアイドル』、『もう一つの地域社会論』に続く本書は、著者とそのゼミ学生たちが酒田市をフィールドに二〇〇九年五月から一〇月にかけて実施した社会調査が基となっている。
調査のテーマは、「酒田の街で“おしゃれ”と“カワイイ”を探す」。このテーマは、二〇〇三年調査の「中心市街地の活性化」、二〇〇五年調査の「中心市街地の進化」を経て設定されたもので、「にぎわい」をどうつくりだすかといった抽象論の段階から、より具体的に、その街のオリジナル、そこに固有の価値を発掘し提言していくことに議論の主眼をシフトさせる必要性からそうしたのだという。
では、なぜ酒田で「おしゃれとカワイイ」なのか。キーとなるのは著者の「メディア文化」概念である。「メディア文化」とは、メディア発の娯楽性の高い文化であり、それを受信した消費者のライフスタイルを指す。この観点からすれば、酒田の街には、大火で焼失した映画館「グリーン・ハウス」が育んだ人びとのおしゃれな行動様式であったり「酒田舞娘」の等身大的な可愛さであったりと、他の地方都市に比べて豊富な「メディア文化」が存在していると言える。そしてその「メディア文化」のトレンドが「おしゃれとカワイイ」なのである。これが、女の子文化というユニークな視点から酒田の街を記述する理論的根拠となる。
当然、その調査内容もユニークだ。酒田市内の高校生八〇〇人への意識調査やそれを受けての商店街関係者や高校生たちとの対話。本書には、その全文が収録されており、データとして貴重である。だが何より興味深いのは、それらが、酒田の街という他者と出会った東京の女子学生たちの気づきや成長の記録としても読めることだ。ここにあるのはフィールドワークを通じた教育機会の提供である。むしろそれ自体を街のコンテンツにできないか。想像力を喚起させられる一冊である。*1

*1:山形新聞』2010年7月25日 掲載