結城登美雄 『地元学からの出発』
地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける (シリーズ地域の再生)
- 作者: 結城登美雄
- 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
- 発売日: 2009/11/01
- メディア: 単行本
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本書の事例は、一般には「地域づくり」として知られているものである。その定番はこうだ。まずは中央行政により、地域活性化の「成功事例」がモデル化される。次にそれに詳しい「専門家」が地域を訪れ、すぐに商品化できそうな資源を「発見」。それをもとに、行政・学者・資本が一体となって都市向け規格品の大量生産・消費システムを構築。その結果、地域経済が回復する、という筋書きである。だがそこには、地域の主体であり当事者である住民たちの姿がない。当然ながら、それでは長期持続は不可能である。
本書の「地元学」は、そうした「地域づくり」に異を唱える。地域再生の目的は経済効果に限らない。あくまで中心は、そこに暮らす人びとのQOL(生活の質)の総体的な向上にある。地域資源発掘も、本書ではその観点から評価される。例えば、資源には「加工して持ち出して売れるもの」に限らない、その場所に固有の知識や技術、習慣や文化なども含まれる。「わが家の自慢料理」だって貴重な地域資源である(観光資源になりうるという意味で。あるいは、その掘り起こしの過程で人びとに学びと承認とを与えてくれるという意味で)。それらは地域の当事者ならではの視点だ。「地元学」が当事者性にこだわる所以である。
構造不況と財政危機と人口減少とが常態となるこれからの日本社会。人任せにできる余地はもうどこにもない。そんな中、私たちがこの「地元」でできることは何なのか。本書には、そのヒントが濃密に詰まっている。*1