『「ユニバーサル」を創る!』

■読了文献。112冊目。井上滋樹『「ユニバーサル」を創る!:ソーシャル・インクルージョンへ』。著者は、ユニバーサルデザイン推進を目的とするNPOユニバーサルデザインネットワークジャパン(UDNJ)」の理事・事務局長。ユニバーサルデザインとは、すべての人にとって利用可能なように、製品や建物、環境をデザインすること。それは誰もが生きやすい社会をつくっていくために非常に重要なコンセプトではあるのだが、ハード面だけでなく、ソフト面での配慮、すなわち、あらゆる人びとの存在を念頭に置いたコミュニケーションやさまざまな人びとによる享受を目的としたサービスなど、ユニバーサルデザインに限られない「ユニバーサルサービス」が同時に必要となる。本書は、『ユニバーサルサービス』(岩波書店 2004年)でそれを訴え、ハードとソフトの両面から誰もが生きやすい社会づくりを提唱した著者が、では実際に、多様な人びとを包摂し、それぞれがともに暮らしやすいような社会=「ユニバーサル」をどう創ればよいのか、その答えを、実際にその現場で格闘する人びとへの取材を通じて描いていこうとするものだ。視覚ハンディキャップテニス(視覚を使わず音の出るボールを打ち合うテニス)やピポ駅伝(子ども、高齢者、障害者、健脚者などの多様な人びとがチームを組み、タイムを予想するレース)など、障害の有無に関係なく楽しめるスポーツの普及活動、障害者が大学で学べるようにするための受験情報支援、精神障害のある人びとによる商店街での「買い物宅配」サービスなどなど、全国各地のユニークな事例が、そこには豊富に並んでいる。それらに共通するのは、参画を通じた「ユニバーサル」創出だ。支援する側がされる側に一方的に何かを与えるというのではなく、両者がともにその何かを創っていくこと。その過程でこそソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)は達成される。敷居を下げようと工夫の凝らされた装丁それ自体が「ユニバーサル」の生きた見本だ。ぜひ手にとってその感触を確かめてみてほしい。