『子どもが出会う暴力と犯罪』

■読了文献。109冊目。森田ゆり『子どもが出会う暴力と犯罪:防犯対策の幻想』。警察庁統計(2008年12月)によれば、防犯ボランティア団体は日本全国で約4万団体、そこで活動するボランティアの総数は250万人を越えるという。彼らは、お揃いのジャケットや腕章姿で、子どもたちの登下校時に集団で街頭パトロールを行っている。しかしながら、この種の取り組みに子どもたちを犯罪や暴力から守る防止力はさほどない。統計が明らかにしているのは、子どもが路上で見知らぬ人から殺傷される確率よりも、交通事故によって死ぬ確率、家族や知人から殺傷される確率のほうが格段に高いということ。そもそも、子どもをめぐる犯罪は急増してもいなければ、近年急に凶悪化しているわけでもない。にも関わらず、人びとは、マスメディアや警察行政、防犯ビジネスなどによる「不安の組織化」に煽られ、防犯テクノロジーへの依存や思考停止の果ての不審者狩りへと、自発的に動員させられている。まるで戦下の隣組――上からの国家全体主義を補って、住民の相互監視を担った草の根の中間集団全体主義組織――のようだ。こうした「自分の外側に安心を求める」ハード中心の防犯対策に本書が対置するのが、「自分の内側に安心を育てる」CAPプログラムの導入だ。CAPとは、Child Assault Prevention(子どもへの暴力防止)の略称。ワークショップを通じて子どもたちの人権感覚――「安心・自信・自由」の権利――を高め、さまざまな暴力から自分を守るための力を獲得してもらうことを目的とした教育プログラムを指す。CAPはアメリカで1978年に始まり、日本には1995年に導入された。以来、全国各地のNPOが担い手となった150以上ものCAPグループが、350万の大人と子どもにプログラムを提供している(2008年3月)。テクノロジーからコミュニケーションへ。60年前の失敗を繰り返さないためにも、私たちがCAPに学べることは多い。本書を叩き台に、私たちそれぞれが暴力防止のコミュニケーションを育て上げていこう。