一戸富士雄・榎森進 『これならわかる東北の歴史Q&A』

これならわかる東北の歴史Q&A

これならわかる東北の歴史Q&A

東北地方はなぜ「東北」と呼ばれるのか。冒頭での、この唐突な同語反復めいた問いから本書は始まる。方位的に首都東京の「東北」にあるから、というのが大方の想像する根拠であろうが、地図を見れば一目瞭然なことに、東北六県は正確に首都の真北に位置する。では一体なぜ。
本書は、この問いに導かれるように列島北部の人びとが「東北」と呼ばれるようになる経緯を歴史的な事実に基づいて易しく解説していく、「東北」の歴史入門である。東北民衆史が専門の一戸富士雄(青森県出身)とアイヌ研究者の榎森進(天童市出身・東北学院大学文学部教授)による共著。初心者向けに、写真や地図を多用するなどの工夫が施され、とても読みやすい。
先の問いにそろそろ答えよう。「東北」概念の成立にあたり意識されていたのは「西南」。要は、薩摩長州が実権を握る明治新政府に対し、列島北部の諸藩が奥羽越列藩同盟を結成して抵抗した歴史的事情が背景にある。この内戦は、勝者の目線から「東北戦争」とも呼ばれる。かくして我ら列島北部の民は、差別と圧政のもと、国内植民地としての歴史を歩むことになる。
もちろん明治維新が全ての出発点というわけではない。征夷大将軍(列島北部征服が目的の官職)による侵略戦争に始まり、幕藩体制下の石高制に要請されて進んだ広域的な新田開発(稲作プランテーション)まで、中央政府による植民地化の試みは連綿と続いてきた。現在の私たちに存在する東京への劣等意識は、そうした力が個々の内面にまで浸潤したものだ。
本書はしかし、そんな植民地化の歴史を、侵略する側ではなく、侵略される側、抵抗者の目線で描き出す。脱植民地主義から見た「東北」とでも言おうか。その激しさや強さは、植民地住民としての私たちのアイデンティティに亀裂を生じさせ、その底に眠る何かを揺さぶり覚醒させてくれる。私たちにも抵抗と自立は可能だ――かつての私たちがそうであったように。そんな思いを抱かせてくれる本だ。*1

*1:山形新聞』2008年12月14日 掲載