『戦後日本は戦争をしてきた』

■読了文献。166冊目。姜尚中×小森陽一『戦後日本は戦争をしてきた』。これまで、私たちの社会が「常識」として採用してきたのは、「戦後日本は戦争をしてこなかった」という語り口である。右の人であれ(戦後日本は戦争をしてこなかった。ゆえに今後は戦争ができるよう改憲すべき)、左の人であれ(戦後日本は戦争をしてこなかった。ゆえに今後も戦争をしないよう護憲すべき)、結論は違っても、基本前提の点では等しく「戦後日本=平和国家」という認識が共有されてきた。この通念を疑い、戦争史として「戦後日本」を読み解いていこうというのが、本書の試みだ。在日の政治学者・姜尚中と、「九条の会」事務局長でもある文学者・小森陽一による対談集である。本書が扱う「「戦後日本」の戦争」の筆頭は、朝鮮戦争(1950−53)である。朝鮮と韓国、同じ民族どうしが殺し合い300万もの死者を出したこの戦争に、「戦後日本」は二つの点で深く関与しているのだという。第一に、「朝鮮戦争特需」。敗戦で不況だった製鉄業や石炭産業が、朝鮮戦争による軍需で息を吹き返し、瞬く間に好景気となり、56年には戦前の生産力を回復するにいたる。続く「高度経済成長」も同様で、「戦後日本」の経済発展は、朝鮮半島の隣人たちの血で贖われたことになる。第二に、「警察予備隊(のちの陸上自衛隊)」創設(1950)と「日米安全保障条約」締結(1951)。「戦後日本=平和国家」の枠組を規定するこれらの取り決めもまた、朝鮮戦争を背景になされた。条約に基づき在日米軍基地が置かれた嘉手納や横須賀からは戦闘機が飛び、朝鮮を爆撃した。ここでもまた、「戦後日本」の安全保障は、隣人たちの血に多くを負っている。だが、こうした重要性にもかかわらず、朝鮮戦争という「「戦後日本」の戦争」の、私たちにとっての意味は未だ明らかではない。対談を通じ、アジア冷戦史の文脈から「戦後日本」を語り直した本書は、未だ終わっていないこの戦争(とその終わらせかた)について考え始めたい人のための、格好の入門書となるだろう。