『ロシア・アニメ』

■読了文献。151冊目。井上徹『ロシア・アニメ:アヴァンギャルドからノルシュテインまで』。旧ソ連諸国の社会や文化などを紹介するシリーズ「ユーラシア・ブックレット」の一冊。断片的で限られた情報にしか触れることのできない同地域に関して多面的な情報を伝えるのがねらいで、本書は20世紀ロシア・ソ連のアニメ史を概観する。著者は、映画史・ユーラシア文化が専門の研究者。帝政末期モスクワで「コマ撮り」という手法そのものを創出した先覚者スタレーヴィチに始まるロシア・アニメ。革命と内戦による中断をはさみ、それが本格的な第一歩を踏み出すのは、20年代初め、ロシア・アヴァンギャルドの時代である。児童アニメの領域に裾野を広げたソビエト・アニメは、扇動・宣伝としての芸術が幅をきかせるスターリン体制の30年代、ディズニー化の趨勢から距離を保った芸術実践を展開。これが、「雪どけ」の時代の人形アニメ復権につながっていく。有名なカチャーノフ『チェブラーシカ』やノルシュテイン『霧の中のハリネズミ』『話の話』などは、この流れから生まれた作品だ。ロシア・アニメ史の重要人物・作品を、背景にある社会・政治状況と連関させて描く、もう一つのロシア・ソビエト文化史である。