「分母を増やす」ということの効用。

■六年ほど前から、三つの居場所づくりNPO団体が持ち回りで行っている居場所スタッフ合同研修会。一年ぶりの再開となる今回は、私たち「ぷらっとほーむ」が担当となり、四月初頭、山形市内で開催した。それぞれに多方面に活動を拡大しつつある三団体ゆえ、扱うテーマを限定しすぎると研修に偏りが出る。そこで、各団体からのスタッフを「活動歴の長さ」を基準に、「古参」/「中堅」/「新人」に分け、グループごとに会議をし、結論を報告してもらうことにした。
■議題は、「組織内部でのそれぞれの立場における課題とその解決のためのアクションプランとは何か」というもの。どの分科会の議論も興味深い内容だったが、ここでは「中堅」部会のそれをとりあげたい。この部会には、三団体それぞれの「居場所」部門の責任者が参加した。組織内部での中間管理職的な立ち位置にあるという彼(女)らが話し合ったテーマは、「感情労働の負荷を集中的に背負ってしまいがちな中堅スタッフが燃え尽きてしまわないためにはどうするか?」。
■これは、感情労働に従事する労働者のリスクマネージメントの問題と整理できる。看護や介護、教育などの対人サービスの世界における「バーンアウト(燃え尽き)」と同様のリスクがそこにはある。分科会が危機回避のためのアクションプランとして採用したのは、「スタッフは自分の分母を拡充せよ」、すなわち、支援ワークを通じて支援者の内側に蓄積されたストレスを発散できるような、別の活動領域(=分母)をなるべくたくさん確保せよ、というものだ。
■例えば、Tさんの事例。彼(女)は、居場所の開設日時には居場所の仕事をしているが、別の日時には予備校や派遣会社で働いている。さらに彼(女)は、社会学を学ぶ大学院生としての顔ももつ。休日には、趣味の読書に励んだり、恋人と逢瀬を重ねたりしているかもしれない。これだけたくさんの顔(分母)をもてば、いやでも個々の世界は相対化されてしまう。当然そこでは、世界へのこだわり=ストレスも相対化されざるを得ない。これが「分母を増やす」の利点だ。
■以上の提案に私は激しく同意するのだが、それを組織全体に位置づける立場からは、次の点を補足したい。すなわち、「分母を増やす」は、個人のリスクマネージメントという観点のみならず、「寛容なる多様性の空間」としての居場所の魅力を保つ(組織のリスクマネージメント)という観点からも重要なのだということ。したがって、そこで大事なのは、「どのような分母を増やすか」であり、「どれだけ自分の中に他者性や多様性を確保できるか」なのである。*1

*1:『ぷらっとほーむ通信』060号(2008年4月)