ひがしたによしあき 『ストレスと「うつ」がわかる本』

ストレスと「うつ」がわかる本―精神科医からの生活のヒント

ストレスと「うつ」がわかる本―精神科医からの生活のヒント

近年、うつ病が急増しているといわれる。うつとは、憂うつな気分やおっくうさ、落ち込みといった精神状態とともに、食欲低下や不眠、朝のだるさ等の身体症状によって、日常生活に支障が出てしまうような状態をいう。
厚生労働省推計によれば、二〇〇二年時点でうつ病等による外来通院者数は約七一万人にのぼり、これは三年前の一・六倍の数値だという。医療機関での受診者はうつ病経験者の四人に一人のみとの報告やその後の増加分も含んで考えると、うつのすそ野はどこまでも果てしなく広がっていく。背景にあるのは、社会全体に瀰漫する閉塞感や漠然とした不安のもとで日常化したストレスだ。ガス抜きとしての「祭り」も「物語」も不在ゆえ、鬱屈した情動は出口をふさがれ、私たち自身の内側に再び折り返されるより他ない。まさに「一億総うつ/総ストレス社会」とでも呼びたくなるような光景である。
では、日常化したうつやストレスと私たちはどうつきあっていけばよいのだろうか。天童市在住の精神科医による本書には、この課題について、専門家ならざる私たちが自ら思考し、取り組んでいくための貴重なヒントがぎっしり詰め込まれている。
一般には「早期発見、早期受診」を勧めるのが、うつ対策の基本である。しかし、治療の現場では、人手不足ゆえに効率化を求められ、薬物療法中心とマニュアル偏重に陥っているというのが実態だ。その一因は私たち消費者側の「専門家依存」の心性であろう。著者が提案する「心の病とのつきあいかた」とは、自分の内面を専門家に白紙委任して楽になろうというのではなく、「心の病」をきっかけに、自分にとっての幸せとは何か、人生の優先順位を何におくか等、今後の生きかたを再考する機会にしようというものだ。そこでは専門家は伴走者にすぎず、主人公はあくまで「私」である。この視点に貫かれた本書は、私たち消費者が医療機関や専門家を使いこなしていく際のガイドとしても有効であろう。*1

*1:山形新聞』2006年11月5日 掲載