『ナラティヴの臨床社会学』

ナラティヴの臨床社会学

ナラティヴの臨床社会学

■読んだ本。80冊目。『ナラティヴの臨床社会学』。ナラティヴ・アプローチ入門。というか、ナラティヴ・アプローチ普及のための政治的実践の書。ナラティヴ・アプローチが前提するところによれば、現実は、言語的にかつ社会的に構成され、物語という形式において組織化される。語られる物語は、会話というメディア(を組織する聴衆の承認)を通じて社会的現実へと変換される。自己をめぐる現実も然り。セラピーとは、そうした意味において自己物語が書き換えられる経験をさす。ドミナント・ストーリー(支配的な物語)を相対化し、未だ語られていない新たな物語=オルタナティヴ・ストーリーを現前させるのに適した場として著者が着目するのがセルフヘルプ・グループであり、それらは「ナラティヴ・コミュニティ」=「自己を語る/語り直す空間」として位置づけられる。こだわって考えていきたいと思ったのは、著者が繰り返すナラティヴ・アプローチの三つの手法(①物語の書き換え、②無知の姿勢、③リフレクティング・チーム)とそれが意味するという「専門家」の解体=権力の回避、という議論。「権力の回避」と見せかけてその実いかなる形で権力がそこに紛れ込もうとしているのか、をもっと丁寧に見ていく必要があるのではないか。