村井雅清 『災害ボランティアの心構え』

災害ボランティアの心構え (SB新書)

災害ボランティアの心構え (SB新書)

本書は、三・一一以後、私たちの日常の一部と化したかに見える災害ボランティアという存在について、被災地NGO協働センター(災害ボランティア・NPOの中間支援NPO)代表を務める著者が、豊富な実践事例に基づいて、その意義や可能性を論じたものである。とりわけ、私たち自身が当事者ともなった東日本大震災の事例が身につまされる。
本書によれば、著者たちは、私たちが停電の暗闇の中で何もできずにうろたえていたのとちょうど同じ頃に被災地へ先遣隊を送り、また電気復旧後、私たちが生活物資を少しでも多く確保すべく列をつくっていたのとちょうど同じ頃に本県内外で避難者支援を本格化させたという。県内の災害支援NPOの人びともまた当時同じように考え動き始めていたわけだが、正当な手続や申請がなければ動けない行政やその下請機関とは異なり、自分たちの頭で何がニーズかを考え、その充足に向けて行動するアクティヴィズムが、彼らのようなNPOの本質にある。そうした本質論が東日本大震災という共通体験を素材に縦横に語られる本書は、私たち東日本の人びとにとっての格好のNPO入門となっている。
 とはいえ、災害支援NPOの前途は多難だ。震災直後、「初心者は被災地に行くべきでない」という「迷惑ボランティア」言説がマスコミを中心に広がった。その効果もあってか、災後一貫してボランティアは不足しているという。本書はこれを批判、各自が自分の頭で思考し行動する「十人十色」のボランティアだからこそ現地の多様なニーズに応えることができる、ゆえに初心者も押しかけていい、と論じる。
評者の目には、被災しなかった自分には被災者を助ける道義的義務があるのではという人びとの葛藤やそれに由来する不安を、「いや、あなたは何もしなくていいんだよ」と慰撫し、無為を正当化してくれるものだったがゆえに「迷惑ボランティア」言説は普及したように見える。「あなたは何もできない、ゆえにしなくてよい、他の誰かに任せるべき」――かような甘言が、あれほどの震災を経てなお、私たちの社会には蔓延している。あの言葉に安堵した「あなた」にこそ、本書を手にとってほしいと思う。*1

*1:山形新聞』2011年10月23日 掲載