『災害ボランティア論入門』

災害ボランティア論入門 (シリーズ災害と社会5)

災害ボランティア論入門 (シリーズ災害と社会5)

■読了文献。140冊目。菅磨志保・山下祐介・渥美公秀『災害ボランティア論入門』。災害NPOの活動がはじめて大規模に展開された1995年の阪神・淡路大震災。その15年後を目前に編まれた本書は、研究者やNPO実践者、防災行政担当者などが、それぞれの立場からこの14年間の経験をふりかえり、そこで得られた実践知の蓄積を体系的にわかりやすく示したものである。災害NPOと聞くと、避難所に寝泊りして被災者の世話をしたり、壊れた家屋の周りで瓦礫の片付けをしたりといった光景が目に浮かぶ。だが、彼らの活動はそれだけではない。災害現場のニーズは時間とともに変容する。最初に必要となるのが、上述のような災害直後の被害軽減・拡大防止のための災害救援活動である。この段階では、行政が手を出せない制度の隙間を発見し、対応していく創発性が、災害NPO独自のメリットとなる。やがて被災社会が復興に向かうと、求められるのは地域復興や生活再建を支援するような活動となる。ここでもNPOは、仮設住宅――「孤独死」問題など「超高齢化社会の先取り」と言われた――における入居者のコミュニケーション促進のためのカフェ運営や被災者自身による地域起業を支援するなど、被災者のエンパワーメントに独自の役割を果たした。さらには、事後対応のみならず、平常時における予防・減災活動の必要性も明らかになってきた。ここでも、マンネリ化しがちな行政の地域防災活動(避難・消火訓練など)とは異なり、オリエンテーリング形式による防災マップづくりなど、NPOならではのユニークな防災プログラム――「防災」とは言わない防災活動――の開発が進められてきた。災害NPOと言うと、KOBEの事例が圧倒的にならざるを得ないが、ここにはそれ以外の被災地――日本海重油流出事故(1997)、新潟県中越沖地震(2004)など――の支援事例も豊富である。そんな本書からは、災害支援NPOの多様なありかたを学ぶことができるだろう。