山平重樹 『実録 神戸芸能社』
- 作者: 山平重樹
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2009/11/18
- メディア: 単行本
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本書は、戦後芸能界の黎明期に当たるこの神戸芸能社(一九五七年発足。前身が山口組興業部)の歩みを、田岡と彼を取り巻く昭和の綺羅星たちに焦点を当て、丁寧に追いかけたルポルタージュだ。著者は、ヤクザや右翼など近代日本のアウトローを描いた著作の多い長井市出身のフリーライター。
本書の特徴は、単なる暴力団のフロント企業としてではなく、それまで前近代の慣習に埋没していた芸能・興行の近代化や事業化に本気で取り組もうとした堅気の集団として、神戸芸能社を描き出した点にある。この理解には著者のアウトロー贔屓も多分に作用していようが、ヤクザという存在の、近代日本における地域社会との蜜月関係を想起するなら、それもありである。
元来ヤクザは、明治後期、資本主義の急速な確立という近代国家の要請下で形成された都市下層社会、炭鉱地域社会、港湾地域社会など市民社会の周縁部で生まれた。法治の及ばぬそれらの場では、農村から流入した雑多な人びとを束ね、暴力を担保に秩序を維持する社会的権力が求められた。これがヤクザの起源だ。放浪芸が主であった近代日本の芸能者たちが、地域社会の顔役だった彼らと密接な関係を築いていたのも当然と言えば当然の話だ。
一九六〇年代、警察行政による暴力団取締りとテレビの普及とが、そうしたヤクザと芸能界の蜜月を解体していく。神戸芸能社もまた、そうした歴史の中で幕を閉じた。そして四〇年。私たちの目の前には、空洞化した地域社会と空虚なテレビ文化とがのっぺりと広がっている。こんな時代の、こんな私たちだからこそ読むべき一冊だ。ノスタルジーではなく、現在を相対化しそこから自由になるために。*1