『大丈夫、人生はやり直せる』

■読了文献。117冊目。宇都宮健児『大丈夫、人生はやり直せる:サラ金ヤミ金・貧困との闘い』。見えにくい貧困の実態を告発することで問題を顕在化させ、社会的・政治的に解決することを目指して2007年に結成されたNPO反貧困ネットワーク」。そこには、野宿者、フリーター、派遣労働者、シングルマザー、障害者・病者、生活保護受給者、DV被害者、多重債務者などの貧困当事者と支援者が、それぞれの抱える問題の枠や政治的な立場を超えて集まり、「反貧困フェスタ」「反貧困全国キャラバン」など、貧困問題を可視化させるための各種イベントを成功させてきた。本書は、「反貧困ネットワーク」代表を務める人権弁護士である著者の、現在に至るまでの運動の軌跡をふりかえったものである。上述の貧困当事者の多様さにも現れているように、人びとが貧困に至る道はさまざまである。中でも著者は、サラ金被害や多重債務の問題に長年取り組んできた。簡単に俯瞰すると、サラ金業者の高金利と苛酷な取立てが社会問題化するのが1970年代後半。バブル崩壊後の90年代後半には、銀行の貸し渋りにあい資金繰りに苦しむ中小企業を標的にする悪質な商工ローン業者の問題が顕在化。同じ頃、多重債務者や自己破産者をねらうヤミ金融(超高金利で貸付する違法業者)もまた急増する。「借りたものは返すのが当然」「サラ金に手を出すのが悪い」など、自己責任論で片付けられがちな問題だが、その背景は複雑だ。第一に、多重債務者の大半は恒常的な貧困状態にあり、他の誰からも助けてもらえなかったということ。第二に、悪質業者の合法的な高金利貸出を可能にしている「グレーゾーン金利」が容認されたままだということ。背景には、貸金業界寄りの与党議員の多さや外資系業者の意向を受けたアメリカ政府の圧力がある。著者たちの運動により、2006年に新貸金業法が成立。「グレーゾーン金利」が撤廃され、金利規制の大幅強化が実現するが、現在でも多重債務者は200万人以上存在するといわれる。その多くが貧困当事者だ。貧困との闘いは、まだ始まったばかりなのである。