『読書教育』

読書教育―フランスの活気ある現場から

読書教育―フランスの活気ある現場から

■読了文献。86冊目。辻由美『読書教育:フランスの活気ある現場から』。フランス語では、文字が読めないことを「アナルファベティスム」、文字や単語は読めても文章が読めないことを「イレットリスム」という。そうした語彙が存在するということは、フランスではそれらが解決を要する問題として認識されているということを意味する。実際、後者は社会問題としてしばしばメディアをにぎわすという。フランスでは、イレットリスムの防止と一掃のための読書推進の取り組みが、学校やNPO、書店、図書館などを担い手に活況を呈している。本書は翻訳家=作家の著者による、読書教育のユニークな取り組みに関するレポートだ。取材されているのは、高校生が与える文学賞「高校生ゴンクール賞」と子どもたちが選ぶ文学賞「クロノス賞」「アンコリュプティブル賞」。いずれも全国規模の文学イベントだが、もとは市民発の小さな取り組みから始まったものだ。「ゴンクール賞」は、文学界の重鎮10名が審査を行う権威ある文学賞。一方「高校生ゴンクール賞」は、フランス全土の高校生2000余名が候補作品を読み込み、予備選考を重ね、最終的に各地区から選ばれた高校生13名が「ゴンクール賞」と並行して独自の審査を行う。主催するのは、教育省と大型書店。もちろん受賞作は売れる。審査員の責任は重大だ。興味深いのはそれが学校での授業の一環として実施されており、エリート校の生徒に限らない、ごくふつうの高校生たちに担われているということだ。「クロノス賞」はどうか。この賞は「老い」がテーマの財団主催の文学賞で、問題を子どもたちに知ってもらおうと、幼稚園児や小・中学生に審査してもらう。他方「アンコリュティブル賞」は、中小書店がつくるNPOによる文学賞。子どもたちが審査員となる文学賞では最大規模を誇る。「アンコリュティブル」とは「大人の意見に惑わされない」の意。これらの全てに、読書教育NPOが深く関与している。自立した市民であるための最低条件としての読書、という発想。私たちもまた、見習うべき考えかただ。