『ビデオカメラでいこう』

ビデオカメラでいこう

ビデオカメラでいこう

■読了文献。69冊目。白石草『ビデオカメラでいこう:ゼロから始めるドキュメンタリー制作』。本書は、インターネット放送局を運営するNPO法人「Our Planet-TV」の設立・運営に関わった著者による、市民のためのドキュメンタリー制作入門ガイドブック。かつてテレビ局に勤めていたという著者は、映像作品はプロがつくるものと思っていたという。しかし、インターネット放送局の設立・運営の経験を経て、その考えは大きく変わる。開局当初は、プロのビデオジャーナリストを中心に番組を制作・配信していたのだが、やがてそこに学生や市民が参加することで、映像作品の幅が拡大。現在では、マスメディアが扱わない、しかしながら社会的に重要なテーマを扱った市民目線のドキュメンタリーを数多く配信する、貴重な市民メディアとなっている。日本における市民のメディアとの関わりは、マスメディア発の情報を一方的に受信するだけにとどまりがちだ。とりわけテレビに関しては、情報発信を在京キー局が独占し、スポンサー企業の意向のもと、視聴率獲得を主な目的とした番組制作・配信を行うという構造が露骨に存在する。私たち市民は財界が望まない情報に触れることもできなければ、自分たちに必要な情報を発信することもできない。しかし、海外の様子を見てみると、公共物である電波に関しては、それを発信する権利もまた全ての市民に等しく保障されるべき、との考えかたが一般的だ。アメリカではこれを「パブリックアクセス」と呼ぶ。他にも、ナチズムへの反省からメディアの多様性を法律で保障するドイツ、移民への配慮からマイノリティ番組への助成制度を有するカナダ、長期化した軍部独裁政権への反動からメディアをめぐる市民運動が活性化した韓国など、メディアへのアクセスを市民に保障しようとの動きが各国でさかんだ。本書の「ドキュメンタリー制作のススメ」は、そうした動きを、私たち市民が、草の根で実施していくためのガイドである。社会を変える力は、私たち市民がつむぐ映像に宿るだろう。