『ビッグイシュー 突破する人びと』

ビッグイシュー 突破する人びと―社会的企業としての挑戦

ビッグイシュー 突破する人びと―社会的企業としての挑戦

■読了文献。64冊目。稗田和博『ビッグイシュー 突破する人びと:社会的企業としての挑戦』。日本の野宿者人口は、政府による正式な実態調査が初めて実施された2003年には25000人、「ホームレス自立支援法」(2002年)の施行による各種対策の結果その数は徐々に減少しつつあるものの、現在なお16000人ほどが不安定で危険な路上生活を余儀なくされている(2009年)。彼らの平均年齢は50代後半。高度経済成長やバブル経済など都市開発の際に必要とされ全国各地から集められた建設労働者たちが、都合よく使いまわされ、老朽化の果てに廃棄された結果である。日雇い労働者の街・釜ヶ崎(大阪)や山谷(東京)が野宿者問題の先駆けであったことも、そうした事情を示していよう。近年の「ネットカフェ難民」や「プチ家出」など若年ホームレスの存在も含めると、問題の裾野は果てしなく広がっていると言える。釜ヶ崎の全域化である。「ビッグイシュー」は、こうした問題に対し、スコットランドで開始された社会的企業の取り組みで、日本では「有限会社ビッグイシュー日本」が、大阪を皮切りに、2002年に活動を開始した。その内容は、「ビッグイシュー日本」が編集したストリート雑誌『ビッグイシュー日本版』を、野宿者たちが街頭で300円で販売、売り上げのうち160円が彼らの手取り収入になるというもの。それを貯蓄し、住む家を借り、より安定した仕事を見つけるために役立ててもらおうとのねらいがある。野宿者たちをビジネスパートナーとする発想と手法がユニークだ。雑誌自体もコンセプトが「若者×社会問題」と、類を見ないユニークさである。本書は、その誌面作成に関わってきたライターによる、波乱に満ちた「ビッグイシュー日本」の活動の記録だ。今後は、雑誌販売という仕事の提供に限らない、さまざまな野宿者支援を行うためのNPOビッグイシュー基金」を開始するとのこと。社会的企業の現場の空気を、本書は臨場感たっぷりに伝えてくれる。