■読了文献。17冊目。藤野豊『強制された健康:日本
ファシズム下の生命と身体』。
ナチス・ドイツ、ファシスタ・イタリア、そして
天皇制
ファシズム。これら
ファシズム国家をその他の国々からわかつメルクマールとは何であるか。
政党政治の否定や
統制経済、
軍国主義、
ナショナリズムなど、国家の「苦痛や死を与える権力」としての側面にその答えを見出そうとする従来の研究傾向に対し、著者が提示するのは、医療・衛生政策や人口政策など、国家の「生かし管理する権力」という側面である。
ファシズム国家は、国民の身体=人口を「人的資源」として有効活用するため、極端な
優生学的人口政策を実行し、国民には健康と強靭な体力・精神力の保持を義務付け、それを果たし得ない病者や障害者を社会から排除していった。本書では、日本
ファシズムを事例に、それらの実態が細やかに描かれていく。概要のみ記す。
日中戦争開始の翌年、陸軍主導で、国民の体力強化と思想教化を目的とした「厚生省」が設置され、国民の生活空間において「厚生運動」(「健全な娯楽」強制など、国民余暇の管理をめざす官製運動)が波及していくことになる。「建国体操」浸透もその表れのひとつだ。また1942年には、それに覆いかぶさるような形で、「建民運動」(国民体力の練成をめざす官製運動)が波及。それと連動して、国立公園や温泉地などの「建民地」化=心身鍛錬場化が進んでいく。これら官製運動を自発的に支えた「模範的な」国民たちの一方で、「建民」になれなかった人びと(
被差別部落住民、
在日コリアン、
ハンセン病者)や「不健全な娯楽」の供給源として生きていた人びと(娼婦)もまた存在した。彼らは「厚生事業」の名のもとで、戦争動員用の「人的資源」としての有効活用を図られた。
被差別部落住民への「
満洲移住」強要や娼婦の「
従軍慰安婦」動員などはその一例である。こうした、国家による国民の身体=人口管理政策の基本的な発想や手法は、戦後も決して弱まることはなく、現在に至る。私たちの
ファシズムは、まだ終わっていない。