加納寛子・加藤良平 『ケータイ不安』

ケータイ不安―子どもをリスクから守る15の知恵 (生活人新書)

ケータイ不安―子どもをリスクから守る15の知恵 (生活人新書)

内閣府調査によれば、児童生徒のケータイ所持率は、小学生三割、中学生五割、そして高校生九割とのこと。多くが、電子メールやウェブサイト等のサービスをごく普通に利用している。こうした情報環境のもと、親たちの多くは不安を募らせている。想定される主なリスクは二つ。第一が、有害サイトへのアクセス、第二が、ネットいじめやメール依存などによる対人関係の歪みである。昨年末には、人びとの不安に乗じる形で、政府や自治体が小中高校へのケータイ持ち込みを禁止するという動きが各地で見られた。

だがこうした規制強化は、見た目はともかく、実質的には何の解決にもならない。子どもたちのコミュニケーションが地下に潜るだけだ。ではどうするか。禁止でも放任でもない「ケータイ不安」の解消のしかたとは何か。その解決策を易しく語り明かした情報教育の入門書、それが本書だ。情報技術や情報社会が専門の二人による共著である(著者の一人・加納は山形大学学術情報基盤センター准教授)。

著者曰く、親たちの不安は、子どもたちがアクセスするネット社会についての無知に起因する。であれば、まずはその無知を解消し冷静になること。このため、本書はまずネット社会の構造と現状とを平易に描く。続くパートでは、具体的なトラブルに対処するために親が身につけるべき一五の基本的な知恵が紹介される。「まずは親自身が体験」「親子で一緒に無理のない利用ルールをつくる」「子どもの利用状況を定期的にチェック」など、それぞれが具体的で実践的だ。

興味深いのが、親子間のコミュニケーションを通じた合意形成とそれに基づく信頼関係の醸成、という本書全体に通底する家族観である。過度に機能解除が進んだ現代家族の空虚な実態を考えると、著者の提案はどれも敷居が高い感じがするが、消費以外に結束の軸をもてずにいる解体寸前の家族にとって、それは新しい紐帯のきっかけになるかもしれない。その意味で、情報社会の家族論としても読める一冊だ。*1

*1:山形新聞』2009年1月18日 掲載