■読了文献。198冊目。
姜尚中・
中島岳志『日本 根拠地からの問い』。在日で「左」の思想家として知られる
政治学者・
姜尚中と、
ヒンドゥー・
ナショナリズム研究を専門とする「右」の若手論客・
中島岳志による語りおろしの対談集。などと書くと、「右翼」対「左翼」のありがちな論壇プロレスを想起してしまうかもしれないが、本書はその類ではない。対談を通じて浮かび上がってくるのは、右翼/左翼、保守/革新といったおなじみの分岐が生じる以前の、どろどろとした情念が渦巻く近代日本の原初の混沌の姿である。対談は、姜の故郷・熊本で幕を開ける。熊本とは、
明治新政府による
国家主義(ステート・
ナショナリズム)に抗った反政府反乱「
神風連の乱」など、土着的抵抗の現場である。そこで確認されるのは、
新自由主義――金持ちや大都市の論理――に従属する国家(ステート)に対峙するための抵抗拠点=根拠地としての「パトリ(郷土)」だ。「
ナショナリズム」「
愛国心」と聞けば、専ら、国家(ステート)への有無を言わせぬ忠誠心の類いを思い浮かべてしまう
現代日本の私たち。だがそれは、多様で豊かな
ナショナリズムの局地的な一形態にすぎない。本書はそれを教えてくれる。