『これならわかる東北の歴史Q&A』

これならわかる東北の歴史Q&A

これならわかる東北の歴史Q&A

■読了文献。180冊目。一戸富士雄・榎森進『これならわかる東北の歴史Q&A』。「東北の歴史」というと、時代ごとの東北地方の出来事や事件をただ年代順に記述していくような、そんなものを想定するかもしれない。だが本書は、そんなふうなありがちな類書とは異なる。そもそも「東北」という地域区分自体が歴史的な構築物である、との認識が本書冒頭で示される。明治政府内で権力を掌握した「西南」諸藩に対し、最後まで楯突いた「東北」諸藩=奥羽越列藩同盟。その対立構図の中から「東北」は生まれ、現在もなお私たちの認識と行為とを深いところで規定し続けている。かくして本書は、この明治以後の「西南/東北」図式の眼鏡を外して、それ以前の前近代東北の社会や政治、文化を丁寧に記述していく。そこにあるのは、一般にイメージされがちな、貧しくて未開の後進地域ではなく、豊かで独自の文化を開花させた野生の王国の姿だ。ところがそんな北方の王国も、江戸時代に始まり明治以降本格化した植民地化の力に抗いきれず、先にあげたような、低開発地域としての「東北」へと移り変わっていく。私たち東北人を未だなお強固に縛り続ける劣等意識の来た道を、本書は静かに示してくれる。