■読了文献。178冊目。サビーネ・フリューシュトゥック『不安な兵士たち:ニッポン
自衛隊研究』。世界有数の莫大な軍事支出を有する一方で、
憲法により戦うことを禁じられた軍事組織・
自衛隊。陸・海・空の三軍に分かれ各国軍隊に共通する組織構造をすべて備えていながら正式には軍隊と認められない、この「あいまいな日本の軍隊」は、26万もの人びとが「隊員」として勤務する職場でもある。本書は、とりわけ規模の大きい
陸上自衛隊(隊員数約15万人)に焦点を当て、そこに生きる兵士たちの
アイデンティティの詳細な分析を通して、
現代日本における軍隊と社会の関係を考察した実証研究の書である。
陸自駐屯地での一週間の参与観察と約200人ものさまざまな階級にわたる隊員へのインタビューに基づく分厚い記述が、
自衛隊内部のリアリティを丁寧に伝えてくれる。著者は
オーストリア人の女性
社会学者。
違憲性などを理由に、学者たちの間で避けられてきた
自衛隊研究に、著者は果敢に挑む。著者曰く、
自衛隊研究の意義は次の点にあるという。第一に、近年の日本の軍事化傾向(
自衛隊インド洋/
イラク派遣、
歴史修正主義の台頭、
憲法改正論議の高揚など)を、戦闘の際の直接の当事者たる兵士たちの目線から考えてみる必要があること。第二に、近年、民主国家の軍隊の新しい役割として評価されている災害救援活動だが、その点で
自衛隊はパ
イオニアだということ。第三に、
男女雇用機会均等法により増加した「女性
自衛官」という存在に、既存の平和主義的な
フェミニズムを問い返す契機を見出せるのだということ。本書のユニークさは、徹底して現場の兵士たちのありようにこだわったことにある。サラリーマンとも
皇軍兵士とも米軍兵士とも違う種類の「男らしさ」を求められる男性兵士たちと、彼らとの対比から軍事化された「女らしさ」を強いられる女性兵士たち。当然ながら、彼ら/彼女らも、兵士としての自分に悩んだり葛藤したりしながら生きている。戦争や軍隊を語るに際しついつい忘却されがちなその事実を、本書はずしりと思い出させてくれる。