小林武史+AP BANG! 『東京環境会議』

環境と欲望―東京環境会議

環境と欲望―東京環境会議

若い世代に絶大な人気を誇るアーティストMr.ChildrenSalyuなどを手がける音楽プロデューサー、小林武史新庄市出身)。彼は、ヒットメーカーとしての顔とともに、環境プロジェクトへの融資を目的に二〇〇三年に設立された金融NPOap bank」の発起人としての一面をもつ(「ap bank」の発起人はMr.Children桜井和寿と作曲家の坂本龍一、そして小林の三人)。
そんな彼が呼びかけ人となり、二〇〇七年三月、三日間に及ぶ実験的なイベント「東京環境会議」が開催され、ライブやDJ、映像、アートなど、多彩なジャンルのクリエイターたちが参加した。本書は、彼らそれぞれと小林がイベント後に再会し、改めて「環境と欲望」について語り合った対談を一冊にまとめたものである。対談相手には、井上陽水小泉今日子などの他、銀杏BOYZ峯田和伸山辺町出身)の名前もある。では、その「東京環境会議」の実験とは何か。
小林は、共同発起人の桜井とともに「ap bank」を盛り上げるための音楽活動として、二〇〇四年に「bank band」を結成。毎年夏、つま恋での野外音楽イベント「ap bank fes」を開催してきた。そこでの収益金を「ap bank」の資金基盤整備にあてるのが目的だ。「東京環境会議」は、こうした音楽と環境の接点づくりをさらに推し進め、集まった若い人々に対するメッセージ性を強めたものだ。著者はこれを「エコ・レゾナンス」と要約する。
「エコ・レゾナンス」とは、「無理なくポジティブなエコ意識を共振させていこう」という彼(ら)の基本方針である。本書のテーマ「環境と欲望」もまたそこに直結する。従来は、欲望(不真面目さ)を禁圧することが環境活動の、環境(真面目さ)を忌避することが音楽活動の、それぞれの無意識の参加前提となっていた。著者はこの前提に異を唱える。大事なのは、欲望を肯定したその先に環境を位置づけることだ。本書は、この「欲望の使いかた」について、前提ゼロから考え始めるための格好のヒント集である。*1

*1:山形新聞』2008年11月16日 掲載