中井浩一 『大学「法人化」以後』

大学「法人化」以後―競争激化と格差の拡大 (中公新書ラクレ)

大学「法人化」以後―競争激化と格差の拡大 (中公新書ラクレ)

二〇〇四年に断行された国立大学法人化。これまで手厚い庇護下に置かれてきた国立大学にも独立採算が求められるようになった。年々削減される国からの運営交付金も「選択と集中」の名の下に競争的に配分されることになり、各大学は生き残りをかけて資金獲得に奔走せねばならなくなった。
それから四年。法人化による競争激化の結果、大学運営の現場でいったい何が起こっているのか、各大学はそれにどう対処しているのか。こうした問いをめぐる詳細なレポートが本書だ。著者は「教育改革」の実相を真摯に追いかけてきた教育ジャーナリスト。
本書の話題は多岐にわたる。一章では、資金獲得要請の高まりが背景にあるという論文捏造や研究費不正使用の実態を扱う。続く三つの章では、産学連携の現状と課題を検討。全体像を俯瞰(二章)した上で産学連携の先駆的成功と著者が評価する東京大学の全学的な取組みの事例(三章)、山形大学工学部などを含む地方大学の事例(四章)が語られる。
連携といえば、地域への専門人材の供給を担う教育学部や医学部も無関係ではない。五章では、教育学部再編統合失敗後に本格化した教員養成大学の模索が、六章では、医師不足など医療崩壊の実態が大学付属病院の実情から読み解かれる。最後の七〜八章では、地方国立大学の共通課題とそれへの取組みの実態を、昨年学長選で揺れた山形大学などの事例を通して検討、「中央と地方」の問題について考察する。
見えてくるのは、各大学の生存戦略の多彩さだ。財界との連携や地域ニーズ、文科省との繋がりなど、打開策は多様である。しかし、大事なことが欠けてはいないだろうか。大学の社会的役割の一つは、社会から距離をとり、それに批判的に対峙する他者たることにある。でなければ「連携」名目の下請け化が進むだけだ。ここに評者は、実学系学部主導の「連携=社会貢献」の危うさを感じる。ならば私たちは、そこから最も隔たった「文学部」の社会貢献をこそ考える必要があろう。*1

*1:山形新聞』2008年10月5日 掲載