『なぜケータイ小説は売れるのか』

■読了文献。137冊目。本田透『なぜケータイ小説は売れるのか』。『DeepLove』『恋空』『天使がくれたもの』など、近年ベストセラーを連発し、メディアミックスを展開するケータイ小説。ところがその内実は、大半がケータイの無料サイトに掲載され人気を集めた素人の投稿をそのまま出版したもので、「売春、強姦、妊娠、薬物、難病、自殺などの極端なイベントを経て真実の愛にいたる」というパターンの繰り返しだ。なぜそれが売れているのか。本書は、ケータイ小説市場が成立した経緯やそこに関わる人々への取材などをもとに、ケータイ小説の主な読者を、郊外化した地方都市に暮らす一〇代の少女たちと想定。戦後日本の「大きな物語」が失墜し、それに代わる「新しい物語」が不在の地方において、少女たちがケータイ片手に自力で紡ぎ始めた等身大の物語がケータイ小説であると捉える。実際にケータイ小説がどう読まれているのか、主な読者だという「地方都市の少女」の声について、残念ながら本書は寡黙なままである。とはいえ、「ケータイ小説が売れる」という現象のマクロな側面を、手っ取り早く俯瞰したいという方には、お勧めの一冊だ。