『死刑』

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

■読了文献。136冊目。森達也『死刑:人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う』。著者は、オウム真理教(から見た私たちの社会)を扱ったドキュメンタリー映画『A』で有名な監督。被写体の元オウム幹部が死刑囚であるということをきっかけに、彼が本書で取り組んだテーマが「死刑」である。彼の手法は、私たちが自明視してやり過ごしているような、そんな「何か」を焦点化し、関係者をくまなく巡り、素朴な問いかけをし、その語りを収集するというもの。現場の当事者の語りは、私たちが想像するよりずっと複雑で、入り組んでいて、ややこしい。その過程を提示されることで、私たちは、当たり前だと信じてきた前提を揺さぶられ、足場をぐらつかされ、葛藤や苦悩へと叩き落される。本書も然り。死刑囚、元死刑囚、被害者遺族、刑務官、教戒師、元裁判官、元検事、弁護士など「死刑」をめぐる現場の人びと、そして著者の、葛藤と逡巡。かくして、私たちもまた「死刑」の現場に接続され、当事者の問いに巻き込まれる。しかし、それは必要なコストだと著者は言う。なぜなら死刑制度とは私たちの合意に基づくシステムであり、私たちの誰もがその当事者なのだから。