鈴木淳史 『美しい日本の掲示板』
美しい日本の掲示板―インターネット掲示板の文化論 (新書y)
- 作者: 鈴木淳史
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2003/06
- メディア: 新書
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本書によれば「2ちゃんねる」の機能とは、情報の上意下達を担うテレビや新聞などマスコミ(オモテのメディア)の機能不全を補完するウラのメディアであるという点にある。そこにあるのは誰もが情報発信・受信可能な同一平面上でのコミュニケーション。著者はこの対比を、学校の教室の「前の黒板」と「後ろの黒板」に重ね合わせる。先生や学級委員(近代国民国家のエージェント)だけが使える「前の黒板」と誰もが(一般民衆が)落書き可能な「後ろの黒板」。学校を「近代」の換喩と考えれば、「2ちゃんねる」は「前近代」日本のムラ共同体の作法に連続するということになる。
つまり「2ちゃんねる」の醜悪さとは、そのまま私たち自身の伝統の醜さなのだということだ。ならばいっそのこと自らの醜さを積極的に受けいれ、ネタとして享受すること。その身振りにより自己=日本を肯定すること。著者が推奨するのは「2ちゃんねる」的な戯れを通じた日本回帰のススメなのだ。だが、注意が必要だ。そこで回帰される「日本」を、前近代の伝統日本そのものと呼べるのか。それは近代の「創られた伝統」にすぎないのではないか。判断は読者各々に委ねよう。
とはいえ本書は、それ自体ネタ的に消費されがちだった従来の「2ちゃんねる本」というジャンルに、批評的視点を導入したという点(それは同時に批評的ジャンルに「2ちゃんねる」を接続したということでもある)で評価に値する。更なる越境に期待したい。*1