『父と暮らせば』

遊学館ホールにて観劇。『父と暮らせば』(こまつ座第七十七回公演)。

原爆投下から三年後の広島。「生き残ってしまったこと」に自責の念を抱き、自らの恋=幸福追求を断念しようとする娘(西尾まり)と、その恋=幸福追求を応援しようと現れた幽霊の父(辻萬長)による対話から成る物語。自分にはいっさい責任のないはずのことなのに、むしろ圧倒的に被害者であるはずなのに、彼女のなかではそうは感知されず、むしろ自罰的にさえなってしまっている――そういう立ち位置を強いてくるような「体験」、あるいはまた「あまりに圧倒的であるがゆえに語ることができない」ような「体験」として、「原爆」が描かれる。思わず、アウシュビッツのサバイバーを想起。アウシュビッツと類比させて考えるなら、被爆者=「弱者」の立ち位置を梃子に(政治的な)語りの正統性=権力を獲得・行使しようとする連中の振る舞いが、いかに異常かが分かる。ところで、比較史ついでにもうひとつ。広島では被爆者差別があったと聞いたことがあるが、同じようなことはアウシュビッツ南京事件などのサバイバーにも見られたことなのだろうか。